INTERVIEW

「設備」の知識を備えておけば、
建築設計は効率化し、理想を追求できる。
そのための知識・ノウハウを伝承したい。

山本 廣資さん山本 廣資さん
有限会社環境設備コンサルタント代表取締役社長。
1963年 早稲田大学第一理工学部建築学科卒業後。高砂熱学工業(株)にて、空調・換気設備の設計・工事を手がけた後、東急不動産(株)設計監理部、(株)東急設計コンサルタントにて設備設計などに従事。定年後、現在の会社を設立。省エネルギーセンターにて省エネチューニング手法の確立と、効果の検証業務に従事(非常勤)
著書に『建築設備トラブル「マサカ」の話』『マンション設備「マサカ」の話~設備 トラブル相談のQ&A~』『建築計画・設計に潜む「マサカ」「マタカ」の設備トラブル』など。「設備と管理」誌に「『マサカ』の話」連載中。
共著に『すぐに役立つ“節電・省エネ”104項目』がある。
ホームページ「NPO住宅110番」にて各種クレーム・トラブル相談に回答。建築設備トラブル、省エネルギーなどでのセミナーにて講師を務める。
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「設備」の道に進み、空調・換気設備の設計を手がけてきました。

Q.建築に進んだ経緯とご経歴を教えてください。

勤務先の会社が倒産するという苦い経験をした父から、「技術職」の道に進むことを勧められたんです。「食いっぱぐれがないぞ」と。当時の得意科目は歴史や古文だったのですが、素直に従い、理系を目指しました。理系はいろいろな分野がありますが、「形が目に見える」という点で建築分野に興味を抱き、建築学科に進学。同期の仲間たちと一緒に学ぶ中で、自分には「デザイン」より「設備」のほうが向いていると感じ、空調・換気設備を強みとする高砂熱学工業に入社したんです。会社は東急グループとのお付き合いが深かったことから、8年目より東急不動産設計監理部に移りました。東急グループが開発・施工する物件を中心に、オフィスビル、店舗ビル、ホテル、マンション、病院などの設備設計を幅広く経験しました。定年退職後は、現場で培ってきた経験をベースに、建設設備の計画・設計・工事監理や監修、コンサルティングを行うほか、セミナー講師、書籍出版などの活動をしています。ボランティアで、「NPO住宅110番」サイトにおいて住まいのトラブルに関する相談にも対応しています。

Q.印象に残っているプロジェクトは?

社会人になって最初に携わったプロジェクトは、1965年にオープンした「東急プラザ渋谷(当時名称:渋谷東急ビル)、(現在は解体されて別建物建設中」。設計・施工からアフターサービス、その後の用途変更工事(一部)まで全般に渡って担当しました。たくさんのプロジェクトを経験しましたが、世田谷のランドマークでもある商業・業務施設「世田谷ビジネススクエア」も印象に残っている仕事の一つです。28階という高層ビルならではの建築構造をふまえ、空調・換気設備をどのように収めていくかを考えるのは難しくも工夫のしがいがありましたね。

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丁寧に設計したつもりでも、後から「マサカ」が起こり得る。

Q.書籍を複数出版されていますが、どんなテーマですか?

建築計画や設計に潜んでいる設備トラブルの事例や予防対策について著しています。一生懸命に、丁寧に設計したつもりでも、思いがけないトラブルが起きるものです。会社を定年退職する少し前に「先輩たちの失敗を後進に伝え、活かしていこう」という話が持ち上がり、社内報で連載をしたのが始まりでした。以来、建設現場で起きる「マサカの話」を伝えてきたのです。退職後は、出版社の編集長とご縁が出来、『設備と管理』誌に「『マサカ』の話」を連載し、それをまとめて書籍にしました。

途中、話のネタがなくなるかと思いましたが、書いているうちにいろいろ思い出し、トラブルやクレーム以外の情報も盛り込んで、連載は190回を超えました。自分が関わった案件でなくても、あちこちでトラブルにつながったケースを見聞きし蓄積してきましたので、それを伝承しています。書籍だけでなく、研修やセミナーでもお話ししています。

Q.どんなトラブルのケースを伝えていますか?

建設設備の3大クレームは、(1)温湿度不良(暑い・寒い)(2)水(漏水など)(3)騒音・振動です。これらは設備の問題だけでなく、建築計画・設計と関わりが深いものです。(1)温湿度不良は、建築空間の形状・構造・仕上げなどや、吹き出し・吸い込み口の配置の関係がトラブルにつながります。例えば、大きな空間を設ける場合、初めて手がける人は個別空調方式を使おうとすることがあります。それではダメなんです。冷房はともかく、暖房が下まで届きません。大空間の空調は、吹き出し口一つとっても、上から・下から・横からのパターンが考えられる。上から吹くなら天井裏空間が必要で、下から吹くなら床下に風が通るスペースを確保するなど、建築の形が変わってきます。空調・換気の設備というのは、組み合わせ方のパターンがものすごく多いんですよ。オフィスビルにしても、システムによって特徴があるので、その建物に向いた設計をしなければクレームにつながってしまいます。(2)の水に関しては、設備だけのトラブルと考えられがちですが、梁下配管スペースが小さくて排水勾配が十分取れずに漏水事故となる場合もあります。(3)では、設備機器の配置計画やダクト・配管類のルート計画の良し悪しが影響します。ですから、これらの知識は設備分野の方だけでなく、建築設計の方々にぜひ知っておいていただきたいですね。

Q.住まいのトラブルのケースでも「マサカ」が多いですか?

住まいの場合も、温湿度、給排水、騒音・異音のほか、悪臭・異臭などに関するトラブル相談が多いですね。同じような事象でも、その原因は多種多様です。中には思いがけない因果関係で起こっているトラブルもあります。実際にあった例では、築30年以上のマンションにお住まいの方が室内をリフォームして以来、上階のトイレの音がよく聞こえるようになった…という相談がありました。その原因は「サッシのリニューアル」だったのです。二重窓にしたことで断熱性・気密性が高まったのですが、同時に外部の音も遮断された分、建物内の音が響いて聞こえやすくなったというわけです。このケースのように、最近の住宅は気密性が高まっていますが、メリットと同時にデメリットも発生しています。例えば、窓の結露防止対策をしても、湿気が天井にまわり、屋根裏や、最近設置が増えているソーラーパネルの下で結露してしまうこともある、といったようにです。新築にしてもリフォームにしても、設計者はさまざまな可能性を想定しながら設計やプランニングを行わなければなりませんね。

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設備の知識をふまえて設計すれば、手戻りを防止・削減できる。

Q.建築設計の皆さんへ、アドバイスをいただけますか?

設計者にとって、もっとも避けたいのは「手戻り」ですよね。せっかく作成した図面をやり直さなくてはならないとなると、余分に時間もコストもかかります。しかも、発注者や協力業者の信頼も損ねてしまいます。建築のプロジェクトとは、建築設計者による「形作り」から始まります。しかし、頭の中に湧き出したアイデアをそのまま設計図面に落とし込んだものの、設備に関する配慮が欠けていたとしたらどうでしょう。設備担当から指摘を受けて、手戻りや後処理につながり、効率を落としてしまいます。そのようなムダが、実際に多く発生しているのです。建築設計に取り組むにあたり、最初から設備の知識をある程度持っておけば、それに配慮した設計が可能になります。手戻りがなくなる分、本当にやりたいことに時間を使える。意匠設計の皆さんが、自分のアイデアやこだわりを実現することにより多くの時間を持てるようにするためにも、設備の基礎知識を備えておくことをお勧めします。仕事がスムーズになれば、協力事務所にも喜ばれ「一緒に組みたい設計者」として協力を得やすくなると思います。それに、仕事の効率化・円滑化だけでなく、人材価値を高めることにもつながります。設備屋が立ち会っていない場でオーナーから質問や相談を受けたとき、その場で回答することができれば、信頼を獲得できるでしょう。「設備もわかっている建築設計者」というだけで評価は確実に上がります。いずれ独立した場合も、重宝される人材になるはず。「あの人に頼むとクレームが少ない」となれば、オファーが途切れることはないでしょう。設備の知識を備えておくことの重要性やメリットを、多くの皆さんにお伝えしていきたいと思います。

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セミナーで教えるテーマは?

設備の計画段階で留意すべきポイントやトラブル予防法のほか、開発協議における設備面の打ち合わせ事項、法的調査における設備面のチェックポイント、連携を円滑にする議事録作成のコツなど、現場で実践できるノウハウをお伝えします。

どんな設計者と働きたい?

設備屋に評判がいい設計者とは「報・連・相」がしっかりできる人。打ち合わせ議事録を設備担当にも渡す。その際、設備関連部分にマーカーを引いてくれていたり、こちらが検討・返事すべきことを明記していたりすると「この人はデキる」と思いますね。

最後にひとこと

建設設備トラブルの現象は一見多様に見えますが、これらには「共通の要因」があります。そうした要因をつかんでおけば、あらゆるトラブルの事例に通じていなくても、キーワードをもとに的確な情報判断ができます。ぜひ、基本の要因を理解し、応用力を培っていただきたいと思います。

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INTERVIEWER'S_EYES

 

たまたま「住宅110番」サイトを見つけ、相談に回答している人が建築系の人ばかりであるのを見て「自分が設備面の問題に対応する」とボランティアでの協力を申し出たという山本先生。知識・経験豊富なプロフェッショナルであることはもちろん、「人の役に立ちたい」「後進を育てたい」という心意気に感銘を受けました。

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