INTERVIEW

建築にはマニュアルはない。お客様との二人三脚で
快適さに繋がる空間のため、想いを擦り合わせる仕事です。

村上由希子さん村上由希子さん:36歳。和歌山県出身。
株式会社DUO 代表取締役。一級建築士。
芝浦工業大学大学院卒業後、TAOアーキテクツ、
三村建築環境設計事務所での経験を活かし、
2006年に独立。
社名の「DUO」には、DUO(=お客様+建築家)2人3脚という想いが込められている。
「建築は人の活動空間を豊かにする舞台」と考え、
店舗や住宅、フィットネス施設等、様々な分野で活動中。

使用CAD:Vector Works
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建築は、使っていただく人が主役なんです。

Q.ホームページの「建築は舞台」という言葉が印象的ですね。

ご覧くださり、ありがとうございます。建築は「人の活動空間を豊かにする舞台」です。「ハコもの」が主役ではない・・・・人の活動や暮らしがあってこそ、建築は生命を宿します。その建物自体が重要なのではなく、そこで過ごす人びとにとって心地よい空間であったり、日々が豊かになったり、仕事がしやすかったりすることが重要・・・そうなるように、サポートするのが、建築の大事な役割の一つ。「ハコ」を作っても、主役はそれを使う人です。その空間で何が行われるのかが、一番大切だと考えています。

Q.建築に興味を抱くきっかけは?

高校生の私は、ただ単に大学に進むのが嫌で何かを探して過ごしていました。3年生になり、受験勉強に突入したある日の朝5時、家族が寝静まる自宅で1人、テレビを点けました。たまたま、NHKの「時の人」という番組をやっていました。そこに映っていたのは、女性建築家の妹島和世(せじまかずよ)さん。金沢の21世紀美術館などが知られています。ちょうど新日本建築家協会新人賞を受賞なさり、番組で詳しく紹介されていたんです。見たことのない建物ばかり、どんどん出てきました。和歌山で生まれ育った私には初めて見るものばかり。すべてが衝撃。ものすごく惹かれましたね。

Q.朝5時・・・なんだか、啓示的瞬間ですね。

そうそう!そうなんです(笑)。元々絵を描くことはすごく好き。インテリアコーディネーターなどにも興味はありました。けれど、私の関心を決定づけたのはやはり妹島さんの存在。一番惹かれた建物は、再春館製薬の女子寮で、新日本建築家協会新人賞を受けられた建物です。普通、寮というと仕切られた空間が多く、大きめの食堂を併設するくらいのものですが、その寮はそのようなものではありませんでした。真ん中にホールのような空間、炬燵(こたつ)とか、みんなのリビングのような空間がドーンとあって。それぞれの部屋にはベッドだけ。暮らす人びとが自然と集まって来る空間が造られていたのです。必然的にコミュニケーションが生まれ、家族のような感じになる。空間ひとつで、人びとの行動やコミュニケーションまでも変えてしまう・・・こんなことが出来るのかと、びっくりしました。その新鮮な感覚が、自分の中で「舞台」という言葉に繋がっているかもしれません。

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妹島和世さんの事務所で学び、東京へ。

Q.東京に出てくるきっかけはなんでしたか?

その後、大学3年生の時に、妹島さんの事務所で過ごさせていただきました。オープンデスクという、無報酬で体験させてもらう働き方。大学は名古屋でしたが、東京に行き、2週間、ウィークリーマンションに住んで通いました。それが東京に出るきっかけになりました。情報量の多さにカルチャーショック。人の数、本屋さんの数、建築事務所の数・・・名古屋とは違う。それで、大学院は芝浦工業大学大学院に進みました。

Q.就職後、どのようなお仕事を?

初めの就職は、大学院の時に知り合った建築カメラマンの紹介。主に集合住宅をやりました。コーポラティブハウスです。通常の集合住宅は、住む人が決まっていない状態でとりかかりますが、コーポラティブハウスはそこに住みたい人達が集まって、共同でマンションをつくる方式です。入居希望者たちが、土地の取得から設計者とのやりとりまで、全てを自分たちで協力してやっていきます。10世帯のコーポラティブハウスをメインにやっていました。その後、25歳で三村建築環境設計事務所へと進み、3棟の住宅と、カフェ兼ライブハウス・・・それから和食屋さん、オフィスビルのリラクゼーションコーナーなどを担当させていただきました。

Q.お仕事の進め方を教えて下さい。

まずお客様に会って、具体的な要望などをうかがいます。ここで、お客様の立場に立てるかどうか、つまり、共感力、汲み取る力、が試されます。そこからコンセプトを作り、全体のイメージを整えていきます。イメージモデルは、CADで、3次元で作ります。CADは学生の頃から使い始めたのですが、現在はVectorworksを使っています。イメージモデルを元にお客様と話して、これで行きましょう、となったら2次元で図面を作成していきます。この工程で、CADは2段階で使っています。3次元は、インテリアの質感などまで表現出来ますし、家具の配置や角度までしっかりとイメージ出来るので、使い勝手がいいです。

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進化していく建築業界の中で、快適さに繋がる建物を作る喜び。

Q.苦しいことや、モチベーションが揺らぐことは?

もちろん、あります(笑)!苦しかったのは・・・1人で、大きな案件を3件も抱えていた時期、やることが多くて、パンクしそうになってしまいました。相談した先輩に言われた言葉は今でも鮮明です。「乗り越えられるから、それはやって来る。だから乗り越えなさい。そうしないと次に進めないよ」と、教えてもらったんです。今では、確かにそうだと思います。当時も、その言葉を拠り所にして乗り越えていきました(笑)。一度そういう経験をしたからこそ、自分のキャパシティがオーバーしそうな時にも、「出来るからこそ、このお仕事をいただけている。出来るはず。乗り越えよう」と思えるようになりました。この考え方は今の自分のベースです。おかげで、業界の変化が激しくて一日も気は抜けませんが、そのハードルをむしろ前向きに捉えています。

Q.ITの進化と建築の進化の関わりはありますか?

すごくあります。建築業界もどんどん進化しています!まず・・・会議などはSkypeで出来ますし、データのやり取りが楽になりましたね。以前はCADソフトが違うとバグが出て結局データとして使えない、ということがあったのですが、今はソフトも精度が上がり、互換性がよくなりました。2次元で図面を書く時代から、3次元で、図面で書くようになるのではないでしょうか。既にアメリカでは、BIM=Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)といって、3Dモデルで・・・それこそネジ1本まで、細かく作って3Dで書くことが出来るものがよく使われてきています。3次元イメージで立ち上げて、実施図面にまで落とし込んでいくことが出来るのです。日本でもどんどん取り入れられてきています。

Q.独立後のお仕事について教えて下さい。

妹島さんのオープンデスクで知り合った友人が声をかけてくれて、それがきっかけで独立しました。本当に人のご縁に恵まれました。最初は住宅のリフォームでした。その後、3件ほど立て続けに携わらせていただき・・・あれから8年。現在は、スイミングプールなどのスポーツ施設も担当させてもらうようになりました。全体の外観・内装、フロントなども含め、フィットネスの建物は昨年1件、今年は3件目です。スイミングプールは、3、40年前に生まれた業態ですが、建物の老朽化が始まり、少子化の影響もあってすでに見直しが必要です。知らない業態は、その空間や施設を必ず体験させてもらいます。体験すると、人の動きや、使い勝手の問題点も見えてきます。門外漢の視点で、素直に捉えるという感じです(笑)。建築にはマニュアルはありません。足を運び、ヒアリングし、空間に滞在し自分が感じたこととを擦り合わせていく。一次情報の積み重ねが大事。地道ですが、とても楽しい道のりです(笑)!施設の先のお客様のさらに先・・・利用者としてのお客様の気持ち、幸せ、そこを一緒に見ていけたらこの上ないこと。それは建築の本望です。

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CADはいつ頃から使い始めましたか?

学生の頃からですね。当時は、MiniCad(Vectorworksの前身)を使っていました。CAD使用歴は16年ほどになります。今は、Vectorworksを愛用しています。





息抜きや趣味は?

息抜きは、とにかく町に出ること。デザインを考える時は、とにかく頭に入れて入れて入れて・・・という感じです。趣味は、週1回のお茶。とても奥深い世界です。「道」がつくものって、剣道でも茶道でも何でも、「心」に通じているのかなと実感します。お客様と迎える側、双方の心構えというのがあって、深い学びが得られる世界で、はまっています。

最後にひとこと

沢山の出会いの中で今の私がありますが、ベースになっているのは家族の存在です。特に二人の妹たちは良い刺激をくれます!すぐ下の妹はファッションデザイン、末の妹はピアニスト。今日の服は妹のブランド「TOKIKO MURAKAMI」です。それぞれの分野で認められる存在となり、3人でコラボレーションすることが夢です!

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INTERVIEWER'S_EYES

 

笑顔で快活にお話をしてくださった村上さん。知性と明るさが際立ち、話すと誰もがファンになってしまいそう。
建築はお客様と共に作り上げたい、というその姿勢には、
言葉の端々にもフィロソフィー(哲学)が垣間見えました。貴重なお時間、本当にありがとうございました。

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