INTERVIEW

数多くの高層ビルを手がけ、裁判所の調停委員も
「力の流れを把握しないと、いい建物はできないよ」

宮本 慶中さん宮本 慶中(みやもと けいちゅう)さん
1940年生まれ、神戸市出身。
1965年に日本大学理工学部(建築専攻)を卒業し、東急不動産株式会社へ。後に株式会社東急設計コンサルタントに出向。
数々の建築プロジェクトに携わり、2000年からは東京地方裁判所 調停委員に加わる。
2001年に一級建築士事務所「構造企画KDM」を設立。
80歳を迎えながらも、裁判所とコンサルティングの仕事に奔走する日々。
柔道3段。大の相撲好き。
main

理数系が得意で、小さい頃は版画や模型を作るのが好きだった

Q.建築の道に進むきっかけは?

中学のころは弁護士になりたいと思ったことがある。高校のとき先生に「法学部に進みます」と伝えたら、理数系が得意だったため「君は工学部が向いているのでは?」と指摘され、「それもそうだな」と考え直しました。もともと絵や版画が好きで、寄せ木で住宅の模型を作ったこともありました。最近、家の整理をしたら学生時代に制作した模型の写真が出てきました。フィルムがカラーではなく、モノクロでね。バルサ材に紙を貼るなどして、一生懸命作りましたよ。よくやったなと思います。好きだからやったんだろうね。

Q.構造設計がご専門ですね

学生時代は都市計画にも興味がありました。出身の神戸で都市開発を見ていたから。構造も好きでした。コンピュータがまだない時代でしたので機械式計算機、計算尺、そろばんで計算していました。こうした道具でも構造計算には足りていたのです。この時代の荷重計算は余分に拾われる仕組みになっていたので、建物の安全性は高かったと思いますよ。若い人を指導する時は「力の流れを把握するように、どうすると建物が壊れるかを考えないと、バランスのいい建物はできないよ」とよく言っています。先日アペックスで開催したセミナーでは、2001年の同時多発テロで倒壊した世界貿易センタービルについて解説しました。例えば、鉄骨構造の超高層ビルがなぜあのように倒壊したのか。もともと、鉄骨は熱に弱いので、火災が起きても人が避難するまでは耐えられるように耐火被覆をつけています。しかし燃料満タンの旅客機が衝突したため、内部で爆発的な火災が起きてしまい、耐火被覆がとれてしまいました。その火災の熱で鉄骨がもろくなり、重みに耐えきれず、あのように、だるま落としのように崩れていった、ということが1年後に発表されたんです。

PageUp

用賀の世田谷ビジネススクエアは東急グループ初の超高層ビル

Q.お仕事を始めたころの建物にはどんなものがありますか?

例えば霞ヶ関ビル。日本で最初の超高層ビルで、現存しています。竣工間際に見に行きました。まだ周辺に大きなビルがなかったのを記憶しています。あと渋谷の東急プラザ。今は新しいビルに変わりましたが、前身となるビルは私が入社した年に竣工したものでした。かつて有楽町に東京都庁があったこと、知っているかな。東京フォーラムはその跡地です。あの旧東京都庁は好きだったな。バランスがすごくよかった。旧東京都庁のすぐそばのビルで建築確認審査が行われていたので、よく足を運びました。懐かしいな。新宿の三井住友ビルも好きです。東京タワーも計算尺時代のものです。構造がバランスよくきれいでしょう。当時は建設現場でリベットを焼いて、熱くなったそのリベットを投げて、メガホンみたいなもので受けとめていました。熱いうちに締めるためにね。今はやらないけど、昔の職人はそういうことができました。すごかったね。

Q.ご自身が手がけた建物で印象的なものはありますか?

東名高速から見える、用賀の超高層ビル(世田谷ビジネススクエア)。これもバランスがいいのです。かつて東急グループ総帥の五島昇会長が東京直下型地震を懸念し、超高層ビルは建てない方針でした。しかし時代は変わり、最初に手がけた超高層ビルがこの用賀のビルとなりました。

Q.技術の進化をたくさん見てきたのですね

日本の技術でやれないことはないのではと思います。なかでも溶接技術は大きく進化しました。これは訓練が大事です。建物の規模にもよりますが、80mmの厚さの鉄板を80cm角の柱にするために溶接でつないでいきます。時間がかかるので、根気が要ります。職人は荒っぽいイメージがあるかもしれませんが、温厚で優しい人でないとできません。女性もいましたよ。体力と優しさがあればできるんです。

PageUp

建築士、裁判所へ 20年で携わった事件は約470件

Q.建築士でありながら裁判所の調停委員になったのは?

定年を迎える数年前、日本建築学会と最高裁が協議して、裁判所の調停委員に建築士を迎え入れようとする動きがありました。家内の弟が裁判所で建築事件担当の書記官をしていて、やらないかと誘いがあり、定年後の生き方として興味があったので、建築学会に話を聞きに行ったところ「ちょうどよかった。人を集めているけど、足りなくて。なってくれる?」と誘われました。建築調停事件は建築士同士の対立になることが多いですから、みんな巻き込まれたくなくて敬遠していたのです。当時は自ら志願したのは私くらいでしたね。裁判所に関わるようになって20年が経ちます。東京地裁には建築事件を集中して受ける部があります。それほど建築事件が多くなったということです。建築事件の多くは構造だけでなく建築全般で問題があり、他には設備の問題や敷地が事件に関わってきたりします。どれも複合的で複雑多様化してきています。

Q.建築の世界にいる後輩たちに勉強のコツなどアドバイスをお願いします

基本を大事にすること。本をたくさん読みましょう。建築は雑学ですから。建築には世の中にある、あらゆる要素が含まれています。見聞を広め、知識を増やしてください。講演会やセミナーなど、勉強する機会があれば積極的に足を運ぶといいでしょう。私が現役の時は講演会や懇親会はできるだけ参加していました。今必要ないと思えても、将来いつか役に立ちます。

PageUp

最近の趣味は?

大の相撲好きでね。相撲甚句を作って披露することもあります。20首くらい、歌えますよ。歴史が好きで、歴史に関する本もよく読みます。最近読んだ本で「理系からみた日本史」というのは面白かったですね。

健康の秘訣は?

会社は病気したり特別な用がない時以外は休むことはあまりなかったですね。今は健康にいい食べものがたくさん出てきているからでしょうか。食生活を気にしてくれている奥さんのおかげかなと。

最後にひとこと

今はパソコンでいろんな情報を入手できる時代になりました。会合にはできるだけ参加し、情報交換して、人脈を広げておくといいでしょう。コミュニケーションは大事ですよ。私も若い頃はいろんな話を聞いてもらったし、聞かせてもらいました。リアルに見聞きすることは大事ですよ。

PageUp

INTERVIEWER'S_EYES

 

詳細はほとんど省きましたが、インタビューでは設計者の名前、ビルの高さや階数などが宮本さんの口からすらすらと出てくるのです。知識の豊富さと記憶力に驚かされました。携わった建物の中にはすでに取り壊されたものもあり「さみしいですか?」と聞くと、意外にも「そういうのは、あまりない」とあっさり。昔とは建築や耐震基準、インフラ(設備)関連が変わっているため「古い建物は早く新しくしたほうがいい」とのことでした。

加山 恵美

PageUp
interviews
  • 宮本 慶中
  • 甲斐 香央梨
  • 西山 珠代
  • 山本 廣資
  • 真鍋 翼
  • 菱﨑 千加
  • 白石りえさん、下田藍さん、熊田昭子
  • 松田雅代
  • 渡邊朋子
  • 中川理恵子
  • 佐原充
  • 北山丈博
  • 加藤義一
  • 村上由希子
  • 鈴木俊一
  • 榊征倫
  • 森口千春
  • 白石りえ
  • 加藤真啓
  • 岩田恭子
  • 平泉 美知子
  • 馬場涼子
  • 斎藤麻未
  • 菊本則子
無料のAutoCAD研修 CADカフェを運営するアペックスであなたも働いてみませんか?
無料のAutoCAD研修あり!1分で簡単登録!